第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
相手が苦手な男であっても、いつも一緒にいるとそれが当たり前になってしまう。横から奪い取られて隣がちょっと寂しいと思う感覚が一番近いだろうか。
などと考え込んでが首を捻っていると、手紙を読み終えたオルオが控えめにリヴァイに伺いを立てていた。
「兵長、壁外調査前に一度実家に帰省したいのですが」少々怯えた様子で両手を突き出す。「もちろん、大事な時期だということは承知の上なんですけど」
「そんなにビビるな、休暇が欲しいんだろ。あとで休暇届を持ってこい、許可印を押してやる」
「ありがとうございます! さっそく申請書を貰ってきます!」
よほど嬉しかったのだろう。晴れやかな顔でオルオは待ち切れないというふうに腰を上げて食堂を出ていった。
一人許可が貰えると次々に班員は休暇を望んだ。久しぶりに家族と過ごせるから――というのとは少し違うようにみえた。壁外調査前だからという理由が大半を占めているようだ。壁外で帰らぬ人となった場合、もう二度と大切な人とは会えなくなってしまうからだろう。
レトロな便箋の概要を思い起こしつつ、は密やかにリヴァイを盗み見た。
(鬼だと思ってたけど、休暇の許可をくれるんだ)
大事な時期だからこそ休暇なんて出してくれないものと思っていたが。
二枚目に綴られていたのは世間話などではなかった。今週末に開催される社交界へ赴くため、に同伴を願うものであったのだ。
養子を取ったことが周囲に知れ渡ってしまったので、さすがに一人で出席するのは体裁が悪いということらしい。マナーに自信がないはあまり気乗りしないが、フェンデルが困っているのならば二つ返事をするしかない。身寄りのない自分を拾ってくれた恩返しだ。
しかし休暇の許可を貰うのは難しいものと半分諦めかけていたのだけれど。
窺うようにじっと見ていた視線に、リヴァイが気づいた。声を発せず、「なんだ」というふうに双眸を細める。
「なんでもありません」
眼を糸のようにし、口角をにこりとさせては返した。
(いまじゃなくてもいいわよね。休暇の申請書に記入してから、あとで持っていこっと)
何も問題なく休みが取れそうでよかった、と丁寧に便箋を畳んで封筒に入れ直した。