第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
二枚の便箋に綴られている文字は右上がりで跳ねが強い。見慣れた癖はフェンデルのもので、差出人のデルフェンとはアナグラムなのであった。
(え~っと、なになに?)
――元気でいるか? わしは先日、何もないところで躓いて腰を痛めてしもうた。いやはや足腰が弱くなったもんだ。
(やだ……大丈夫かしら)
年寄りが一度でも腰や足を痛めると、そのまま寝たきりになってしまうケースが多い。の祖母がそうであった。そのあとに綴られている内容から、外出していることが窺えるので、フェンデルは大事ないのだろうけれど。
一枚目の便箋には日常のことが長々と書かれていた。以前聞いたものと同じ事柄も含まれており、書くことがないというよりは書いたことを物忘れしてしまったのだろう。
が手紙に集中しているよそで、エルドは意外そうに眼を丸くしていた。薔薇模様の手紙を一通手にしている。
「これは兵長宛ですね」
「俺に?」斜めに腰掛けて、足を組んでいるリヴァイは首を傾けた。
「はい。このおしゃれな封筒は女性からでしょうか、なんだかいい匂いもしますが」
「余計な詮索をするな。さっさと寄越せ」
エルドの斜め前にいるリヴァイが手を伸ばして揺らす。引ったくるようにして受け取り、裏面の差出人名を見て、不味い珈琲を飲んだような顔になった。
「しつこい女だ」封も開けずに真っ二つに破り始める。
二枚目に移るところでは瞳を上げた。
「読まないで捨てちゃうんですか」
「てめぇにゃ関係ないだろう」
ただ尋ねただけなのに睨まれて、てめぇ呼ばわりされてしまった。謎の手紙によって機嫌が斜めらしい。
エルドは苦笑いする。
「兵長はおモテになりますからね」
「そんなんじゃねぇよ」
吐き捨てたリヴァイは、そばにあるクズ入れに投げ入れた。くしゃくしゃに丸められた手紙はおそらくラブレターなのだろう。紙クズに紛れる恋文を見て、なんだかほっとしているがいるわけだが――
ぱちぱちっと瞬きをする。(なんで私がほっとしてるのよ)
飛行機のシートベルト着用サインに似た音が頭の中で「ポン」と鳴った。ほっとした理由に行き届く。
(つきっきりで面倒を見てくれてる人を、突然取られたような感じ)