第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
雑談の途中で男兵士がやってきた。たこ紐で縛られている様様な形をした封筒の束を持っている。
「本日の手紙です。二班の分を纏めておきました。各自で配ってください」
「ご苦労」
横目でリヴァイが言うと、男兵士はすぐに立ち去ってほかの食卓を回り始めた。兵団に届く手紙を彼はいつもこうして配ってくれていた。
置かれた手紙のそばにいる人間が、班員に配るという暗黙の了解に従って、エルドが紐を解く。
「まずはペトラだ。いつもすごいな、何通もある」
「ありがとうございます」
手を伸ばして手紙を受け取ったペトラは嬉しそうだ。淡いソーダ色やクリーム色の手紙を、手の中で回しながら宛名を確認している。
「友達からと……、またお父さんからだわ。もう! 心配性なんだから」
配られた手紙を見るみんなは頬を綻ばせていた。オルオでさえ、垂れ目になって口角を上げていた。
親元を離れて兵舎暮らしをしている兵士たち。自由な時間をなかなか取れない彼らにとって、外から届く手紙はとても嬉しいもののようだ。
「こっちはのだ。またデルフェンさんって方からだな」
「ありがとうございます。ボクのおじいちゃんなんです」
グンタを挟んだ向こうにいるエルドから、手を伸ばしては手紙を受け取る。
「その人以外からはに手紙が来たことないよな。親御さんはいるんだろ?」
「忙しい人間なので、手紙を書く暇なんてないんだと思います」
手紙の端をちぎって開封しようとしているグンタが、
「寂しいな。息子が心配じゃないのかよ。それとも追い出された口か?」
「どういう意味ですか?」
「獅子の子落としってやつさ。崖からよじ登ってきた強い子しかいらない、って言われでもしたか」
グンタの肩に手を掛けてエルドが窘める。
「それじゃがいらない子だと言ってるようなもんだろう」
「やだ、エルド先輩」ペトラはくすっと笑う。「始めから崖を登ってこれないって決めつけてる先輩こそ、ひどいこと言ってます」
「や、これはすまん。つい」エルドは苦笑いで側頭部を押さえた。
「気にしないでください。本当にただ忙しいからってだけなので」
彼らが持つの印象は実に脆弱ということらしい。取り立てて気にもせず、空色の手紙を開けた。