第3章 :魔法と逢瀬と魅惑(レトロな便箋の概要)
01
天井から下がっているオイルランプが、窓から滑り込む風によって僅かに揺れ動いていた。弱い照明だけでは、足許まで充分に明るさが行き渡らない食堂の一角で、
「食った食った」
満足げに腹を叩いたのはグンタだった。
仲間意識を高めるために、みんなで夕飯を食べるという副班長であるエルドの取り決め通り、精鋭班は食卓で食事を済ませた。重い腹を休めるために只今くつろぎ中である。
「もう少し肉が入ってりゃあなぁ」
唇を捲らせてオルオは前歯を楊枝で掘る。そこへ、厨房から茶を貰ってきたペトラが後ろを通る。
「贅沢言わないの。これでも増えたほうじゃない」
「一時期ほんとにちょっと増えたが、最近になってまた減り始めたよな」
茶をくばるペトラに、ありがとうと軽く目配せをしてグンタが言った。彼女は「いえ」と首を振り、
「また運営が厳しくなってきちゃったんでしょうか」
嘆息しつつ、珍しく同席しているリヴァイにも横から茶を出す。「どうぞ」
「悪いな」リヴァイは湯気がたゆたうカップに指を絡めた。「壁外調査に向けて馬を何十頭か買ったからな。その皺寄せが食費に影響しちまってるようだ」
エルドは深く頷いてみせた。
「特別な調教を受けてる馬ですからね。荷を引くようなそこらの馬とは、桁違いに値が張りますから」
「何も食えねぇよかマシだろ。なあ、よ」
語尾を強調し、リヴァイは冷淡な眼つきでちらりと見てきた。片頬をピクつかせては笑う。
「お腹が空いてればなんでも美味しくいただけます。水すら蜂蜜みたいですよ」
「恭しいことだ。水だけでも生きていけそうじゃないか」
静かな嫌味を互いに交わして茶を飲む。
(まだ根に持ってるのかしら。初日の食堂でのこと)
冷たそうな外見とは反対に、リヴァイが情け深い心を持ち合わせていることは知った。が、基本的にとの相性が悪いらしい。両者が口を開けば、しばしば戦いになってしまうのである。
全員に茶を配り終えたペトラが席に着いた。一仕事したとばかりに、ほっと息を吐いてカップに唇をつける。「ん、美味しい」