第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「……なら、なんで泣く」
は肩を痙攣させた。畳んでいる膝小僧に小さな丸い染みが増えてゆく。
「泣いてません」
意地を張ったとき、大きな手がの頭を引き寄せた。リヴァイの胸許におでこが押しつけられる。
「そうだ。男は何があっても涙を見せてはいけない生き物だ。お前は泣いていない。俺は何も見なかった」
にはどちらか分からない。本当に泣くなと言いたいのか、隠してやるから、見ないでやるから泣いていいと言われているのか。けれど固い胸許があまりにも温かいから、次々と涙が溢れ出てきてしまう。
リヴァイの胸に縋っては嗚咽した。吐息混じりの声が頭に降る。
「いらないなど誰も思っちゃいない。がいないことを班の奴らはすぐに気づいた」短く息を零して笑う。「ただ謝らなければいけない。何を勘違いしたか、あいつらはお前が脱走したんじゃねぇかと、馬鹿みてぇに深刻そうにしてたがな」
「脱走したくてもできません。だって絶対大きい罪に決まってる」
「ああ。そこまでお前は馬鹿じゃない。だが悪い、俺も少しは疑ったんだ」
言いながら、微少ではあるが手が動いていた。もしかしてリヴァイは意識せずにの頭を撫でているのだろうか。
「疑ったのに、どうしてここが分かったんですか」
「首根っこ掴んで連れ戻してやろうと街へ出たんだが、そういえばと思い出してな。お前、倉庫の片付けを頼まれてたろ」
湿り気を帯びる胸の中で、はこっそり微笑んだ。
「月が出ているうちは、誰も来ないと思ってました。ボクがオルオやペトラみたいに、一日にして立体機動で張り合えるようになるくらいの低い確率で、誰かが気づいてくれたとしても、それがリヴァイ兵士長だったなんて思わなかった」
まるで当てにしていなかったというふうに言われても、リヴァイの眼差しはずっと和らいでいた。
「〇・〇一パーセントもねぇのか。なあ、。お前の中の俺は、よっぽど薄情者だな」
(そんなふうになんて思ってないっ)
は違うと胸許におでこをすり合わせた。必死に声を出そうと思うのに、感極まる思いが喉を詰まらせて出てこない。