第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
明日になれば。朝になれば。倉庫へ行く用がなければ、誰もには気づかない。いなくなったことを、おそらく誰も気づいてはくれないのだろう。
気にかけてくれるような親しい友人を、積極的に作ろうとしなかったが悪い。不必要に馴れ合おうとも思わなかったのだから、酷いとかいう気持ちは全然ない。
「全然ないのに……どうして寂しくなるの」
結んだ唇が震えてきてしまう。唯一の光である半月が朧に見えてきてしまう。
一生閉じ込められたままというわけではないのに、こんなことで涙が零れそうになった。ひどくみじめに思えてくる。それが何だか滑稽で、泣きたい顔では小さく笑った。
「こんな所にいるからだわ。薄気味悪い雰囲気が、そうさせてるだけなんだから」
外で金属の音がして、は弾かれたように引き戸に食い入った。錠前が外れたような音だった。
勢いよく引き戸が開かれて、月明かりが人影を浮かび上がらせる。
「……リヴァイ兵士長」
引き戸を両手で全開にしたリヴァイは、上半身を激しく波立たせており、ひどく息が上がっていた。小さく座り込んでいるを見ると、頭を垂らして大きく息を吐いたようだった。
「正解だったか」
「なんで、だって、夜中なのに」
は喉を詰まらせた。眼の縁から零れ落ちそうになった涙を慌てて拭う。
全身疲れきった様相のリヴァイが正面で片膝を突いた。
「夕刻からか」
はただ頷いた。
「誰かがわざとやったのか」
「違うと思います。奥のほうにいたから、気づかなかったんだと思います」
顔を下げて身を丸めているをリヴァイの伏せた瞳が見ている。
「声は上げたんだろう? どの班も、あの時刻はこの辺をうろついてたと思うが、誰も気づいてくれなかったのか」
「声は上げませんでした」
「なぜ」
難詰しているような響きではなかった。息を吐くように静かに聞き出そうとするような音色だった。
物悲しく、はふっと笑う。
「鍵を閉められちゃったとき、なんだか情けなくなっちゃって。必要とされたいわけじゃないけど、お前なんかいらないって、そう言われた気分になっちゃって。そうしたら、このままでいいやって。朝になれば絶対出られるんだから、ずっとじゃないんだから、だから」