第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
と、開け放ったそのままの姿勢でリヴァイは硬直した。瞳は人形のように丸く、引き出しの中身全体が眼に映っているのかいないのか、判断が微妙な様相であった。
ぱちっと瞬きをして、リヴァイは折り畳まれている布に向かってそっと手を差し入れた。両脇を摘んで眼の高さで翳した物体は――
「なんだこりゃ」
複雑なカットをされたレースや、アクセント使いで縫いつけられたリボン。華奢な形が男心をくすぐる可憐な下着だった。
「こんなパンツ履いてんのか、は」
トンカチで頭をガツンと殴られた気分だった。リヴァイは額を覆う。
(可怪しいだろ)
ハンジの話によると、こういう女っぽいものは大嫌いのはずではなかったか。リヴァイは改めて引き出しの中を眺め回す。目に入る白やピンクの下着が眩しかった。
(あれだ。男でありたいと思っても、野郎のパンツは女の体には合わねぇ。それで仕方なく、こんなのを履かざるをえないんだろう)
可愛らしい下着を、わざわざ選ぶその心は理解できなかったけれど。
無理矢理に言い聞かせたが、そうでもしないとリヴァイが混乱してしまう。ますますの男装の意味が不明になるからである。
痰など絡まっていないが咳払いをして気を取り直した。立ち上がり、部屋から出てリヴァイは走り出す。兵舎を出て、正門を抜け、夜の市街へ飛び出した。
密かにを連れ戻すつもりであるが、行く当てがいまいちなかった。の個人資料には実家の住所が詳細に書かれていなかったのである。ウォールシーナ南区ヴェーク通りといっても豪邸がたくさんあるのだ。
「クソが!」
行き着けるか分からないが、リヴァイはとにかくウォールシーナの実家を目指した。しばらく駆けて気づく。
馬を使ったほうが効率がよいではないか。思ったよりも焦っていて気が動転していたようだ。
(なぜこんなに必死になってる)
走りながら不思議に思えてならなかった。脱走が本当ならばの行動は自己責任である。連れ戻してどうしようというのか。
(決まってるだろう。説得して、なかったことにする)
過保護すぎやしないか。どうして放っておけないのか。
ふいにハンジの顔が浮かんだ。
――出来の悪い子ほど可愛いってあれ?