第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
脱走したと、彼らは完全に疑っているようだ。咄嗟にリヴァイの口をついたのは、
「いま思い出した。身内に不幸があったとかで、急遽帰省させてほしいと言ってきてな。晩飯前に外出の許可を出したことを、すっかり忘れていた。悪いな、騒がせて」
苦し紛れの嘘だった。
エルドを含め班員はあからさまにほっとした。
「そうでしたか。よかった、それならいいんです」
「早とちりだったな。格好悪いぜ」グンタが笑う。
「まったくだ。まあ、そう思うのも無理ないが。疑われるあいつがそもそも悪い」
リヴァイが言うと、ペトラは肩を竦ませた。
「なんだかに悪いことをしちゃったわね、脱走だなんて、そんなこと疑っちゃいけなかったわ」
「ほら、さっさと部屋へ戻れ。就寝時間はとうに過ぎてる」
強引な感じで、しっしっとリヴァイは彼らを追っ払った。
誰かのいびきが聞こえる廊下で、リヴァイは腕を組んでの部屋の扉を見据えていた。
まさかとは思っている。まさか脱走などするはずがないと。
が除隊すると言い出したときに、あれだけ脅したのだ。脱走も罪深いと馬鹿でも分かると思う。
リヴァイは部屋のドアノブを回してみた。「鍵が掛かってるな」
何かが起きて、部屋の中で気を失っているという可能性もある。エルヴィンから合鍵を借りてこようかと思ったが、万が一脱走だった場合が拙い。誤魔化しようにも勘が鋭い彼だから逸早く疑われるに違いない。そうしたら本当に罪に問われてしまう。
「仕方ねぇな、壊すか」
リヴァイは扉から距離を取った。片足を振り上げ、ドアノブを目掛けて素早く蹴る。大きな音を立てることなく、ドアノブが廊下に落ちて転がった。
衝撃で扉は自然と開いた。遠慮なくリヴァイは室内に入って見渡す。綺麗に畳まれている布団が目についた。床に倒れている姿もない。部屋は無人だった。
いよいよ胸騒ぎを起こしそうだった。リヴァイはせかせかと歩き回り、クローゼットを開け放った。男物の服が数着掛かっていた。
「服はあるな。突発的か?」
夜逃げの用意をすることなく、唐突に去りたくなったのだろうか。念のためにチェストの引き出しもすべて開けてみる。片膝を突いて、一番下の引き出しを勢いよく開けた。