第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「俺には分からないんだが。たったそれだけのことで、お前らが不味そうな顔をしているのが」
「部屋にもいないみたいなんです。何度も強くノックしたんですけど」
ペトラは落ち着きなく瞳を動かす。
少し分かってきた気がした。そんなことでどうしてリヴァイの部屋まで訪ねてきたのかが。
「何を心配している」
顔を上げてペトラは口を開こうとするがしかし、噤んで頭を伏せてしまう。代わりにエルドが声を潜める。
「脱走――したんじゃないかという結論が、俺たちの答えです」
リヴァイは一瞬反応が遅れた。まさかと思ったが、よくよく考えて馬鹿らしいことを言っていると改めた。
「いまさら脱走などするか。おおかた疲れて、物音にも気づかないほど部屋でぐうすか寝てんだろ」
「そうでしょうか。訓練のあとは、いつもひどくしんどそうにしていました。そろそろ限界が訪れて、すべてが嫌になったとか、そういうふうには思われませんか」
エルドがリヴァイの意見を請うているのに答えられなかった。必ずしもなくはないと思いそうになってしまったからであった。
俯いているオルオが呟く。「俺、あいつに結構嫌味言ってました。もしかしてそれがこたえて」
「それはない」リヴァイは言い切った。「オルオの嫌味ぐらいじゃはへこたれん。俺の悪態と比べたら可愛いもんだからな」
言ってふと思い至り、リヴァイは眼を見開いた。風呂上がりでさっぱりしたのに冷や汗が出そうだった。
(まさか、俺の暴言が原因か?)
束の間呆然としていたら、班員は勝手に結論づけて話を続けていた。エルドが顎をさする。
「脱走が本当だとすると拙いな」
グンタは相槌を打つ。「兵法によると、脱走兵は重罪だったような」
「壁外調査も控えてるのよ。それを含められたら最悪――」
ペトラの語尾を、銃弾でも受けたような顔でオルオが攫う。
「死刑!」
廊下の隅から隅まで響き渡りそうな声でリヴァイは我に返った。夜風で冷えきったオルオの頭を咄嗟にはたく。
「馬鹿! 声がでかい!」
「す、すみません」脳天を抱えてオルオは身を縮こませた。
「お前らはもういい、部屋に戻れ」
強めに言うとエルドが上目してきた。「どうされるんですか? のこと」