第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
暗い外で、いまだペトラだろう女のことを絶賛している、オルオの囁きが聞こえてくる。
(青春だな)
と微笑ましく思うも、自分は欠陥があるのだろうかと、どこかで悩んでしまいそうになった。けれど――
「いらねぇな、そんな女」
夫を失くした妻が人生に絶望したように泣き崩れる姿を、ふと思い出してしまった。部下の戦死を告げに家族のもとへ何度も、それはもう何度も訪れた。悲鳴のように泣き叫ぶ様子を見て、あとを追って自殺してしまうのではないかと怖くも思った。
いつ死ぬかもしれないのだ。分かっていて大事な女を作るなど無責任である、とリヴァイは思う。
(それ以前に、好きってのが分からねぇ)
くだらないことを考えていた自分が可笑しくて、リヴァイはふっと小さく吹き出したのだった。
自分の分とリヴァイの分の洗濯物を抱える、ほくほく顔のオルオが従者のようについてくる。いいと言ったのに、風呂上がりであるリヴァイの荷物持ちをすると利かなかった。
二階への階段を登りきったところで、リヴァイは洗濯物を返すようオルオに手を伸ばした。
「お前の部屋はこの先だろ」
「そうですが、兵長のお部屋までお供します」
あまりに従順過ぎても逆に気持ち悪い。ペトラのことが好きなオルオに限って妙な思いは抱いていないと思うけれど。
「……そうか」
諦めて三階へと向かう。暗がりの廊下の先にランプの明かりが灯っていた。リヴァイの部屋の前で数人が寄り集まっている。
「エルドさんたちですね」オルオが言った。
「報告のし忘れでもあったのか」
彼らとの距離が近づくと、足音に気づいたリヴァイの班員がこちらに顔を向けた。不安そうな表情で駆けつけてくる。
「兵長!」エルドが言って、リヴァイは面々にさっと眼を通した。
「どうした。お前ら全員、クソを漏らしそうな顔をしてやがるが」
「がいないんです」
シャツに長ズボンといった楽な姿のペトラが、眉を下げて絞り出すように言った。
「いない?」リヴァイは首を傾けた。
「はい」ちょっと深刻そうにエルドは言う。「班を結成して以来、親睦を深める目的で、晩飯はみんなで食べるという決まりを作ったんですが」
「ほう、悪くない。それで?」
「今夜の晩飯にが来なかったんです。昨日までは来てたんですが」
眉間に皺を寄せてエルドは瞳を下げる。