第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
大抵一番風呂をもらうのだが、あれこれ用事ができて遅い時間になってしまうことがあるのだ。
風呂の縁に頭を乗せて足を伸ばす。この高さがリヴァイに丁度よく、くつろげる体勢であった。
「兵長! 湯加減はどうでしょうか?」
白く曇った窓の外からオルオの声が聞こえてきた。外にある焚き口で薪を焼べているのだ。
天井を仰いだままリヴァイは声を上げる。
「ああ、丁度いい。悪いな」
「ではこの辺で保持しておきます! ごゆっくり浸かってください!」
外で火を見ていろと、オルオに特段命令したわけではない。タオルや着替えを持って浴場の入り口をくぐったとき、丁度湯を上がったオルオと鉢合わせしたのだ。いまから風呂に入るリヴァイに彼は言った。「ちょっとぬるいんで、兵長が上がられるまで火を見ています!」と。
従順な部下だ。ことさら満足な気分でリヴァイは瞼を落とした。ただ小さな胸の燻りもあって、
「……妙な真似事さえなきゃな。俺のあのスタイルは、あんなに見た目悪かったか?」
「スタイルがなんですか!? 兵長!」
思わず尻が滑って、リヴァイの頭が縁からずれ落ちた。両耳まで沈み込み、散った飛沫が顔全体にかかる。溺れる手前で慌てて底に手を突いた。
リヴァイの心臓はひどく狼狽していた。(あいつも地獄耳か?)
「い、以前抱いた女の身体が、俺好みのスタイルだったと思い出していただけだ」
「ど、どういう方がタイプなんですか!?」
なぜかオルオも狼狽えている。こういう話に興味はあるものの経験がさほどないのだろう。
リヴァイは手のひらで顔を拭い、
「メリハリの利いた女だ。小せぇ胸には欲情しない」
「お、俺の好みはですね! ぼ、ボブカットで、眼が子犬のようで」だんだん声量がなくなっていく。「ちょっと気が強いけど年上で」
照れているような響きがあった。
(ペトラが好きなのか)
オルオの容姿にあたいするような批判的なことを、うっかり口ずさんでしまったリヴァイは、ようやく落ち着きを取り戻していった。
また縁に頭を乗せながら、ぼんやりと思う。
女のことが好きだとか、愛しているとか、そういう感覚がまったく分からないでいた。街で通り過ぎる女や綺麗な娼婦を見て、なかなかいいとは思っても、あくまで性の対象でしか見れない。