第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
つらい思いをして立体機動の技術を身につけて、なんの役に立つというのか。所詮元の世界では役立たない。この地に骨を埋めるというのならば頑張れるのかもしれないが。
ひどいことを曝け出しているのにリヴァイは沈着としていた。何かに思いを巡らせているような遠い眼差しで、の右手の傷口を見降ろしている。
「大丈夫だ。壁の外で世界を感じれば、にもきっと俺と同じものが見えてくる。教えを守ったお前の剣だこは、その一歩だ」
どうして信じてくれるのだろう。自信が自分を見放してしまいたくなるというのに。
「調査兵団ではこう言われててな。壁外から帰ってきて初めて新兵は一人前になる。の場合は技術もねぇから一人前にはなれないだろうが、いま悩ませている胸の内は消えるだろうと、俺は信じてる」
もったいない言葉は、を泥を噛むよりつらい気持ちにさせた。
「……買いかぶりです」
「どうせこれ以上失望しないんだ。期待が外れたってがっかりしねぇよ」
黒髪をそよがせるリヴァイの表情は柔らかい風に似ていた。
21
日が落ちるころになって、本日の訓練も終了となった。
身体をたくさん動かすというのは腹が減る。いままで生きてきた中で、こんなにも腹がペコペコになったことがあるだろうかとは物思う。加えて、質素な飯でも豪華なディナーに味が様変わりしてしまうことも知った。
(お腹減った~。今夜のご飯、何かしら)
着替えて早く食堂へ行きたいと思っていた。夕焼け小焼けの中、班員は兵舎のほうへぞろぞろと戻っていこうとする。もたもたしているの周囲には、訓練に使ったもろもろの用具が散らかりっぱなしになっていた。
(みんな片付けを忘れてる。疲れ果ててるからかしら)
と能天気に思っていたらグンタが顔だけで振り返った。
「それ、倉庫に全部片付けといてくれな」
前触れもなかったからはびっくりする。「またボクがですか?」
振り向いたオルオが後ろ歩きをしながら指を差した。
「雑用は下っ端の仕事だ! 疑問に思うことがもう生意気なんだよ!」