第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
追加の薬を指に取って、リヴァイは据わった眼を突き刺してきた。
「そんなのは不潔中の不潔で当然だろう」
「他人の血のほうが……不潔というか、病気が移りそうでボクは触れませんけど」
「次は左手だ」と言われては素直に差し出した。
丁寧に、それでいて優しくリヴァイは塗り込んでくれる。
「そう言われると、確かに衛生上良くないのかもしれん。だってのになんでだろうな。汚くも見えないし、触れたくないとも思わない」
木漏れ日から差し込む細い陽光が、斜めにリヴァイの顔を差していた。左目に掛かっているから微かに眩しそうにする。
「お前は、死んだ仲間の血や努力の結果で起きた怪我を、汚いと思うか」
母親が包丁で指を深く切ってしまった日のことをは思い出してみた。家族だからかもしれないが、血液など恐れずに確か必死に治療をした。
「汚くないかもしれません」
「そういうことだ。お前の手を見て、俺の苦労も無駄じゃないと分かったら、こうしてやりたくなった」
伏せ気味の睫毛で隠れる眼差しは、手つきと同じように優しい色をしていた。だからは唐突に謝りたくなった。
「ごめんなさい」
うん? というふうにリヴァイが瞳を上げた。
「いつまで経っても下手で」
「一朝一夕にできることじゃないと分かってる」
「違うんです。いくら脅されても、やっぱり自覚できないんです」
全部を言い表すことができなくてはもどかしい思いをしていた。
自分の世界じゃないのに、どうして闘わなくてはいけないのか。ただの会社員だったのに、どうして兵士なんてしているのか。しまいには長い夢を見ているのではないかとさえ思えてくるのだ。
「ペトラやオルオを見てすごいとは思っても、できない自分を悔しくは思わない。ただ、頑張ってる姿を見ていると、ひどく情けなく思うんです。ダメな人間だなって思わされるんです」
「本当に駄目な奴は、自分が駄目な奴だと気づきもしない。そう自覚しているだけで多少はマシだ」
「でも、こうやってつきっきりで見てくれてるのに、どこかでこんなこと意味ないって思ってるんです。サイテーです」