第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
(いよいよ変な奴だ)
リヴァイは眉を顰めた。話がまったく噛み合っていないように見えた。
女の服装は時期外れなものなうえに露出が多い。柔らかそうな生地のブラウスは透けていて、下着の色が淡く浮いて見える。商売女のようなけばけばしさは見て取れないので、娼婦の出張というわけでもなさそうだ。挙動不審な様子があったなら、リヴァイも彼女に職務質問くらいはしていたかもしれない。
憲兵もおおいに怪訝そうにしていた。助けを求めて女は言い寄る。
「もしかして警察みたいな人たち!? 私、何でこんなところにいるのか本当に分からないんです! 助けてほしいくらいなの!」
記憶喪失だろうか。リヴァイも野次馬の一人になってしまっていて、何となく店先から動けずにいた。モブリットが屈んで耳打ちしてくる。
「どうします? あの人、本当に困っているようですけど」
「俺たちの管轄じゃない。ああいうのを処理するのは憲兵だ」
そうは言ったがリヴァイの足は動かなかった。
事態は急変した。憲兵が女の腕を掴んで捻り上げた。
「わけの分からぬことを言って! 言い逃れようとしてもそうはいかない! 手形がないのなら明らかにお前は不法侵入だ! 本部に連行する!」
「連行!?」女の顔が青ざめた。渾身の力で腕を振り上げて憲兵を払う。「連行されるようなことはしてないわ!」
振り払われて軽くよろめいた憲兵は、女に憤怒の眼つきをした。「女のくせに!」抵抗されたことが気に入らなかったらしい。
女はすぐさま踵を返して走り出した。が、数歩も走らないうちに後ろ手を掴まれる。
「逃がすか!」女は地面に引き倒された。「こいつめ! 生意気な女だ!」
「いや! 離して!」
地に伏した状態の女を、憲兵は二人がかりで押さえつける。
「抵抗するな!」
小柄な背中に憲兵の膝が伸し掛かっていた。それが痛いようで、女は顔を顰めていた。
傍観しているモブリットは声を顰めた。
「女性相手に手こずっているようですね」
「普段訓練もしないで怠けてるツケだな。情けねぇ」
押さえつけられている女は、ぎょろぎょろと辺りを見回す。野次馬から口さがないお喋りが聞こえてくる。
「若い女だな、世も末だね」
「さっき見た奴だ。怪しいと思ってたんだよ」
「誰が憲兵を呼んだんだい? あんたかい?」
楽しみに飢えている富裕層の見せ物に、女は成り果てていた。