第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
毎年同じくらいの額の予算が国から降りていて、それで何とか切り盛りしているが、実のところ全然足りない。いままでよくぞ黙っていたとリヴァイは思う。こんな不遇は面白くない。だから兵団の食事は極端に肉が少ないのだと、怒りも湧いた。
そこで、リヴァイは予算案の数字に勝手にゼロを一つ足した。審議で非難轟々だったが汚い言葉でおおいに罵ってやった。結果可決されたのであるが、それでも三兵団よりかなり少ない予算ではあったのだけれど。
「こっちが大人しくしてるから、王都の奴らが図に乗るんだ。増やした予算を来年削られねぇよう、エルヴィンにはよく言っとかねぇとな」
品物が入った袋を店員から受け取って、リヴァイは出口へと向かう。
「そうですね。せっかくの苦労を水の泡にすることはないです。明日から肉、増えますかね?」
「だといいがな」
扉を押して外へ出た。もう夕方なので、いまから馬車を飛ばしても夕飯にはありつけないかもしれないと思った。
「なんでしょう、あの人集り」
モブリットに言われるまでもなく、リヴァイもすぐに気づいていた。紅茶専門店の目の前の通りに人が集まっているのだ。輪の中心に大道芸人でもいるのかと思ったが、見物というよりは野次馬か。
「何があるんだか知らないが、道のど真ん中ではた迷惑な奴らだ」
興味など湧かず、リヴァイは立ち去ろうとした。大声がして輪が割れる。割れた輪の中心に憲兵団の男二人が見えた。それと――
「女?」
変な格好をしている女と、憲兵が揉めていた。
「どの街から来たと聞いている。手形を出せと言ってるだろうが」
「だから気づいたらここにいたのよ。そもそも手形ってなんのこと?」
「ウォールシーナへ入るには手形が必要である! 持ってないんだな!? 怪しい奴が!」
女は戸惑う。
「ウォールシーナ? ここはそんな名前の街なの? ……聞いたことないんだけど」
「ますます怪しい奴だ。妙な服を纏って、治安を乱そうというのか」
身を庇うように女が胸を抱いた。
「……違う」憲兵二人の胸許を恐る恐る見比べて、必死な表情で顔を上げる。「その紋章だけど、あなたたちは何かの組織か団体なの?」