第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「分かってるだろうな。縦一メートル横十センチだ。きびきびやれ、時間がもったいない」
息を整える暇もくれず、リヴァイがせかしてくる。
木登りをしたことではすでに疲労困憊。ぜいぜいしながら焦れったく声を張り上げた。
「いまやりますって!」
枝の高さよりも少し高めの位置から見えるのは、弾力のある素材が括りつけられている模型だ。突いてみた感触は体育マットの固さに近い。
腰許に下げられている収納箱からグリップを差して刃を嵌め込んだ。長さのある刃は、引き抜くときに腕をいっぱいに伸ばさなければ切っ先で引っ掛かってしまう。
「交差して引き抜くほうが、もしかして楽だったり?」
すらりと引き抜く剣豪のような想像をしつつ、は刃を構える。
「縦一メートル、横十センチ」自分に再確認させてから気合いの声を放った。「やっ!」
頭の中ではうなじを削ぎ取ったつもりだったが――二本の刃は突き刺さったままグリップから脱着してしまっていた。
「なんでこうなっちゃうんだろ」
必要な量を削げなくてもなんとか切り裂ければいいと思うのに、それすら叶わない。さすがに落ち込みそうになってしまう。
釈明のしようもなく、おずおずとリヴァイを見降ろした。頭を垂らし、ゆるゆると横に振る姿が見えた。
嵐の夜に、彼に散々尻を叩かれたというのに、いまだ成果を上げられない。苦手分野だとはいえ、どうしようもないクズに思えてくる。元気な太陽がを明るく照らすのに、心境は曇り空だった。
頭上を突風が通り抜けた。力の籠った短い声と同時に、下草に塊がどさりと落ちてきた。綺麗に削ぎ取られた三日月型の物体は巨人の模型のうなじ部分である。
「よっしゃあ! 今日は調子がいいぜ!」
オルオは模型から木の枝に飛び移った。続いて、前髪をなびかせる向かい風によって、額を晒しているペトラが刃を構える。勇ましい声とともに、オルオが削ぎ取ったうなじの余った部分を削いだ。
動体視力が養われていないは、二人が削ぐ瞬間は、銀色の刃の残像しか見て取れなかった。ペトラは正確に切り取ったように見えたが、
「浅いぞ、ペトラ! いまのじゃとどめはさせなかったぞ!」
「言われなくても分かってるわよ!」
言い合いながら二人は森の奥へと消えていった。