第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
エルドの助けによって、オルオはやっとシーツから顔を出した。暑かったのか顔が火照っている。
「さ、さっきまでやってて、い、いま終わったところなんです。な? ペトラ!」
「は、はい! ピカピカになりました!」
「ピカピカ?」
床掃除に徹しているを通り過ぎ、リヴァイは窓の前に立つ。雲が僅かしかない晴天が覗ける窓枠に指をつうと滑らせた。まるで嫁をいびる姑の行為に見えたけれど。
くるりと正面を向いたリヴァイは、じっと見ていた人差し指から視線を上げた。
「全然なってない。お前ら、掃除をなめてんのか」
どうやら指の腹に埃がついてしまったらしい。長めの眉尻付近に浮かんでいるのは青筋だ。こと掃除に関しては本当に妥協を許さない人である。
まだ芋虫になっているオルオは無理にへらへらする。
「なめてるわけじゃないんですが、どうして訓練の時間に掃除をしないといけないのかが分からなくて」
「訓練の一環だと言ったろう。真面目に掃除をすれば全身の筋肉を使う。要するに、ストレッチと筋トレを同時にしているということだ」
は首を捻りたかった。いまいち説得力に欠ける気がする。とどのつまり兵舎の不潔に絶え切れなかったリヴァイが、班員を利用したのではなかろうか。
が、彼を崇拝するオルオは引っ掛かった。頬をつやつやさせて腫れぼったい一重の瞳を輝かせる。
「素晴らしいです! 俺たちのためにと、そんな隠されたメッセージがあったなんて! やはり兵長はどこまでいっても兵長です! 一生ついていきます!」
無垢なオルオを見て罪悪感でも感じたのか。引き気味にリヴァイは口籠る。
「あ、ああ……その通りだ。強くなりたかったら、せいぜい励め」
「うおおぉぉおお! やるぞぉぉ!」
一気に立ち上がって、オルオはゴリラのように力こぶしを作った。やる気まんまんだ。そんな彼を尻目に、リヴァイはしずしずと退室していったのだった。