第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
読心術などにはないが、ペトラが言ってくれたことは本心のように聞こえた。あきらかに場違いなにも彼女は隔てなく接してくれようとしている。なのに――
「うん。よろしくね」
の作った笑顔は偽物だった。両頬が固くて自然に笑えなかった。
信頼し合うということは、互いにやましいことや隠しごとがないことが前提である。
だからだ、とは思う。だからいまだに友人が一人もできないのだ。相部屋ではなく、個室住まいだからなんていうのは、ただの言い訳である。作ろうと思えばいつだって作れたはずなのに。
対人スキルは人並みにある。特段、人付き合いが苦手なわけでもない。
だというのに自分の取る態度がひとぐ嘘っぽく思えてならないのは、「実は女だから」「実は違う世界の人間だから」という障害が後ろめたさとなって、邪魔をしているからに違いなかった。虚偽で塗り固められているに、本当の友人などできるはずもないのだ。
「オルオったら! 動けば動くほど絡まって、すごいことになってるじゃない」
「早く助けろ! 窒息する!」
シーツに覆われて丸まるオルオを、助けもせずにばしっとペトラが叩いている。とても楽しそうな光景なのに、やはりは巧く笑えなかった。
コンタクトレンズなどしていないが、の眼からはいつだって薄いフィルター越しに彼らが映る。そうして自然体でいられる二人を見ていると故郷を懐古させてくるのだ。
(帰りたい。自分の世界へ帰りたい)
何だか泣きそうになってきてしまい、床の黒ずみを落とすことに一心不乱になる。
だがこれでいい。フィルターという幻のコンタクトレンズは外してはならないのだ。眼から零れ落ちた瞬間、自分の世界へ帰るという意志が弱まってしまう――漠然とそう思うからだった。
「何をやってるんだ、お前たち」
扉口からずんずんと入ってきたのは、困り顔と怒り顔が半々のエルドだった。楽しげなどよめきが隣部屋まで聞こえてしまったのだろう。囁き声で注意してくる。
「おいおい、真面目にやってくれないと困るぞ。遊んでるところなんか兵長に見られたら」
「俺に見られたら、拙いことでもありそうか」
心臓がキンキンに冷えてしまいそうな低音。こわごわと振り返ると、扉口で仁王立ちしているリヴァイがいた。