第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
天然パーマの前髪をオルオは掻き上げた。癖の強いカールは、くるりんとピロピロ笛のように戻る。
「素直じゃない奴だ。恥ずかしくて真逆を言ってるのは、ちゃんと分かってるから安心しろ」
「プラス思考だね。へこたれない爪の垢を少し譲ってほしいくらいよ」
自然な二人の掛け合いは、一日やそこらで作り上げられたものではなさそうな気がした。
「仲いいんだね。二人が班を組むのは初めてじゃなさそうに見えるな」
「腐れ縁だけどね」満更でもなさそうにペトラは眉を下げる。「私たち、西方にある訓練兵団出身で同期なのよ」
「こいつは甘ったれでな。俺のケツばかり追いかけてやがった。オルオ様オルオ様ってな」
オルオはまだリヴァイに成りきっていた。
「嘘ばっかり! どっちかっていうと、オルオが私のことを追いかけてたじゃないの」
床に丸めてあったシーツをペトラは投げつける。
「うお! 前が見えねぇ! ってか、このシーツ臭すぎだろ!」
全身シーツで覆われてしまったオルオは、おばけのように手探りで彷徨う。
ぱんぱんっ、と手を払ってペトラはを振り返った。窓から差し込む陽射しが彼女の髪を柔らかく演出する。
「生意気な年下なんだけど、立体機動でペアを組むとすっごく相性良くってさ。調査兵団に入ってからも、同じ班にしてもらえることが多かったのよ」
「そうだったんだ」
「おわ!」とオルオが太い悲鳴を上げた。爪先で踏んだシーツが突っ張り、両手をばたばたさせながらすっ転ぶ。もう少し右にずれていたら机の角に頭をぶつけるところであった。
腰に両手を当ててペトラは白い歯を見せて笑う。「バカなんだから」
でもね、と彼女は肩越しに振り返る。薄化粧の口許に人差し指を立て、内緒よと言う。
「あいつがいたから、どんなに過酷でも壁外から帰ってこれたの。背中を預けられる相手だから、巨人と渡りあってこれたの。これからもそれは変わらないわ、きっと」
優しく微笑む面差しがには眩しく見えた。
「信頼し合ってるんだ。二人は」
「人から言われると何だか照れるね。でもこれからはオルオだけじゃなくて、精鋭班のみんなとも――とも信頼を築いていけるといいなって思ってるから。改めてよろしくね」