第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
一休みといったふうにペトラは下段のベッドの柵に腰掛けた。
「でもさ、兵長の噂って本当だったんだね」
「噂?」
聞き返したオルオにペトラは頷いてみせる。
「極度の潔癖性って噂よ。っていうかオルオ知らなかったの? そんなスカーフしてるくせに」
「うっ。俺としたことが、べ、勉強不足だったぜ。兵長が掃除好きだったとはな」
面目ない感じで首許のスカーフをいじる。リヴァイと瓜二つの白いアスコットタイ結びだ。
ガムのようにへばりついている黒い物体をは必死で磨いていた。しびれた手を一旦止めて、オルオを仰ぎ見た。
「実はそのスカーフ、ずっと気になってたんだよね。似てるなって思ってたんだけど、今季そういうファッション流行ってたっけ?」
「違う違う」口の前で手を振り、ペトラは可笑しそうにする。「オルオってば兵長に憧れてるのよ。私だって尊敬してるけど、彼のは一種の神様みたいに崇拝してるの」
「リヴァイ兵士長を目指して頑張ってるんだ。えらいね」
「お前に褒められても嬉しくねぇな」
オルオの口が捻くれて、は苦く笑う。
「あのね、こんなんでも君より四つも年上なんだけどな」
薄く笑いながらオルオは眼を伏せた。急に纏う雰囲気が変わる。
「まだまだひよっこな年上が聞いて呆れる。俺に先輩面したかったら、立体機動の腕をさっさと上げるんだな」
やれやれ、と言いたげに頭を振った。
ワントーン下げた低い語調はあきらかに誰かを意識したものであった。喋り方の癖を真似ても、詰まるところ風貌はオルオのままなので、何とも反応に困ってしまう。笑いを取りにきたとも思えなかった。
「いまの物まねってもしかして」
「物まねっていうか、ああいうときは兵長に成りきってるのよ」
またかと溜息をつきたそうにしているペトラが回答してくれた。
「ホントやめてほしいわよね。似てないのに、本人たら格好いいと思って勘違いしちゃってるんだから。兵長に対する侮辱だわ」
左に頭を傾けたペトラの眼つきは冷めた色をしていた。可愛い顔をしてはっきりものを言う子だ、とは思った。