第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
顎髭が朝日に透けるエルドが、一歩踏み出す勢いで意見した。
「お待ちください。彼の実力では我々と見合いません。壁外で彼がミスをしたとして、事は班全体に危険が及びます」
よりもいくつか年上に見える彼は難色を示した。
「足を引っ張るだろうことは俺も想定している。俺たちに任される配置は初列一から三だ。二人ずつバディを組むことになるが、は俺と行動することになる。なるだけ迷惑にならないよう立ち回るつもりだ」
「そうはいっても……」
グンタが首を回してを見てきた。寝癖かさだかではないけれど、短髪の後頭部が跳ねている。長身な彼もより年上だろう。
胸を反らせてリヴァイは語気を強めた。
「は俺の正式な部下であり、今日からお前らの仲間だ。以降、むやみに卑しめたり蔑むことを禁ずる」
切れ長な眼をちらりと寄越してきた。不安なの表情が、魚眼レンズのようにリヴァイの瞳に映る。
「ただし、適度な見下しや悪たれ口は許す。こいつと一緒にいると、苛々してくるだろうからな」
行き着くところは結局馬鹿にしていいということである。こっそり唇を尖らせたはしかし、リヴァイの配慮だとちゃんと気づいていた。
に目をかけているわけではない、自分もほとほと嫌気が差しているのだ――ということを伝わらせておけば、班員は悪戯にいじめてきたりはしないだろう。兵団内でカリスマ性があるリヴァイがの肩を持つことは、嫉妬という火の粉がもれなく降ってくることを示しているのだ。
しぶしぶ納得した班員は、次はむずむずし出した。リヴァイからの指導を早く仰ぎたいのだろう。
「新精鋭班に最初の指示を出す」
首許のスカーフを引き抜き、リヴァイはぱんっと振るって皺を飛ばした。ふわりと頭に掛ける。
「兵舎の掃除だ」
思わず唖然としてしまった班員たち。オルオなど、下がった左肩からジャケットが滑り落ちそうになっていた。
「へ? 掃除?」
すたすたと兵舎のほうへ歩いていくリヴァイは、後頭部の辺りでスカーフをきゅっと結んだ。三角巾をつけた、まさに掃除夫といった出で立ちだった。