第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
微笑みそうになったけれど、人情味がない面差しを崩すわけにはいかなかった。その言葉を待っていたのだと、鼓舞するごとく背中を叩いてやってはいけない。
(脅すくらいでないと、こいつは駄目だからな)
「そうか。いよいよ暢気でいられないな。死ぬ気で励まないと、三つ目の選択肢はないと思え」
「……お先に失礼します」
泣き顔を見られたくないといったふうに、顔を伏せたは急ぎ足で立ち去ろうとした。すれ違いざまにリヴァイの意地悪な口が勝手に動く。
「やめるだの、あまりにみっともないことを口走しるのはこれっきりにしろ。相手が俺じゃなければ失望してたろうな」
意味が分からなかったのだろう、思わず足を止めたが眼を合わせてきた。
「失望しなかったわけじゃない。これ以上失望できないほど、お前の評価がどん底だからだ」
暗闇で明かりを放てるかと思うくらいに、の顔が真っ赤になって頬が膨らんでいく。何やら文句を言いたそうに唇をすり合せていたが、そっぽを向いて逃げ去っていった。
気怠げな風体でリヴァイは屋根の柱に寄りかかった。あちこち欠けている古びた木柱は、寄りかかるとみしりと軋みを上げた。
屋根を仰いで腹から長い息を吐き出す。気を張っていた肩の力が抜けると、次に訪れたのは小さな暗雲だった。――果たしてこれで正しかったのかという。
瞼をゆるりと落として雨音に耳を傾けた。やかましいほどの大雨でよかったと思う。思考を乱されれば、余計なことを考えずに済むからだった。