第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
――生きて帰ってこれなければ意味がないのだ!
頭の中で強く響いた声とは真逆のことをリヴァイは言う。
「経験のないお前が荷馬車班に配置されたところで結果は変わらない。死ぬときは死ぬ」
現実が見えてきたのか、は露骨に目顔を引き攣らせた。
「や、やめますボク! ちょ、調査兵団をやめます!」喚叫は割れていた。
いまさら馬鹿馬鹿しいことを言っていると思った。ならばなぜもっとはやく除隊しなかった、とリヴァイは怒りが爆発しかけた。
平静でいられるよう保つ。が、語調は冷気を帯びた。
「やめても構わない。だが正式に壁外調査の随従に指名されたあとだ。兵法により敵前逃亡と見做されて、お前は」喉許に手刀を入れる仕草をして切る。「処刑台に直行だな」
「そんなっ」
が絶句した。
「巨人に食われて死ぬか、自分で命を絶つか、選べ」
いつも艶やかな唇が風によって乾燥している。口許を震わせて、は泣き言を零した。
「意味不明なそんな生き物に、食べられて死ぬなんてそんなの」
「なら自分で命を絶つか」
眼を瞑っては勢いよく首を振ってみせた。横髪がばらばらとかかる目尻に涙が見えた気がした。
「どっちも選ばないのか」
涙をぐっと堪えているのか調節が外れた口調では言う。
「二つしか選択肢はないんですか」
追いつめすぎているとリヴァイは思っていた。けれどもう時間がないのだ。兵士とは何たるかを、じっくりゆっくりと教えていこうと思っていたがしかし、もたもたしていられなくなった。いままでのような甘さは捨て去るべきなのである。
「どういう意味だ」
――さあ、言ってみろ!
「三つ目を……自分で作っちゃダメですか」
「の選択肢だ。俺が口を挟む権利はない」
うるさそうに頬を叩く髪を、頭を振っては払う。濡れた顔のくせに、揺れる瞳で睨んできた。
「無事に帰ってくる」
――そうだ、よく言った。
大きな安堵感がリヴァイの胸を温かくした瞬間だった。
怖いと思うことは悪いことではない。帰ってくる決心は生きる意志に繋がる。立派な志はまだなくてもいい。生き抜くという強い思いがあれば。