第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
「いいだろう。の精鋭班入りを許可する」
「え――!?」と席を立って素っ頓狂な叫びを上げたのはハンジだった。「そっち!?」
リストをたぐり寄せ、さらに力を入れてリヴァイは握りしめた。蝋燭だけの足りない明かりの中、黒っぽく見える瞳でエルヴィンを睨みつける。
「なんだ? お前の条件は呑んだだろう」
ふてぶてしく首を傾けてエルヴィンは面々を見回した。
「次は、各分隊が受け持つ陣形配置を振り分ける」
会議は長距離索敵陣形の配置に移った。
エルヴィンは折れなかった。駆け引きに負けたのはリヴァイだったのか。この選択が正しかったと答えが出るのは、一ヶ月半後の壁外調査のときである。
轟音が鳴り響いた。近くで雷が落ちたのかもしれない。激しく明滅する光が廊下を青白くする。
会議が終わって解散になったあと、しばし一人で蝋燭の炎を睨みつけていた。蝋がすべて溶けて暗闇が訪れてから、リヴァイはようやく会議室をあとにしたのだった。
ふと立ち止まって、延々と雨が流れ落ちる窓を見つめた。
「今度は唇を尖らせるだけじゃ、すまないかもな」
最前線に立つことをが知ったら、どんな表情をみせるだろうか。この雨のように激しく己を責めるだろうか。
(なぜそんなことを気にする)
自分は上官であり、は部下だ。決定権は己にあるのだから、歯向かってくるほうが可怪しいのである。だというのに、彼の笑い顔が閃光のように脳裏にちらつくのはどうしてか。
毒されていると思った。彼があまりに兵士らしくないから、ときおり日常を忘れそうになるのだ。
(あくまで部下だ、友達じゃない)
雷でまた廊下が光ったとき、少し離れたところでハンジが外を眺めている姿に気づいた。リヴァイは歩き出して、彼女を通り過ぎようとした。
「エルヴィンは譲らなかったね。ああ言えば、明日にでもあなたが諦めるって思ってるのかな」
話し振りから待ち伏せしていたようだ。ハンジの後ろでリヴァイは立ち止まる。
「諦める?」
「の精鋭班入りをやめて、荷馬車班で甘受する」
振り返って窓枠に尻を掛ける。
「そうするんだよね?」