第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
そんなひどい人間が調査兵団にいただろうか。と思っているとハンジが耳打ちした。
「リストを確認してみなよ。答えはすぐに出る」
横目で訝しくハンジを見ながら、リヴァイは初めてリストを手にした。名前が書き連ねられているリストを、上から下へ眼を滑らせていく。自分が選んだ兵士の名前を二つ見つけた。そして最後に書かれていた名前を見て眼を剥いた。
リストを持って銅像のように固まったリヴァイに、第一分隊長が言い放つ。
「そういうことだよ。君が指導してる兵士のことだ」
――印刷時にインクが若干滲んだ文字は、・デッセルと書き表されていた。
リストを卓に叩きつけ、リヴァイは半分怒った態で抗議する。
「どういうことだ、エルヴィン。こいつを壁外へ出すのはまだ早過ぎる。まっさらな状態から指導を始めて、やっと二ヶ月経ったばかりだ」
「考慮してやれるほど、我々に人材の余裕はない」
凛々しい眉をピクリともせず、エルヴィンは冷静に返してきた。
「新兵が初めての壁外調査に出るのは、平常だと半年後からだろう。は訓練兵団も出ていない、ひよっこ以前だ。なぜわざわざ型を破る」
「お前の報告によると、には認識が足りないんだそうだな。半年経ったところで急に自覚が芽生えるとも思えない。ならば早々に経験させたほうが、成長が加速するかもしれないだろう。可愛い子には旅をさせろというじゃないか」
笑えない冗談だ。エルヴィンも笑っていないけれど。
憤りの炎がリヴァイの腹を炙ってくる。
「可愛い子には旅をさせろ? 馬鹿か、真面目な話をしてるときに! 成長が加速する? 才能がないと言い切ったのはてめぇだろうが!」
「ああ、言い切った。仮に本当に才能がないとして、使えない兵士を半年も雇っていられるか? そんな余裕、いまの調査兵団にはない」
エルヴィンはそう切り捨てた。そんな言い方はまるで――
――まったくの役立たずにはならないさ。
――壁にはなる。
に別段思い入れなどリヴァイはない。あるとしたら、植物に毎日水をやるように自分が育てている部下だという事実だけである。種からやっと発芽したのに、枯れることが分かっていて水やりをやめなくてはいけないなんてそんなことは、どうしてもできなかった。