第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
リストを見ながらハンジが言う。
「全体的に戦力が低いね」
「規模としては大遠征になるが、手練ばかりを連れていくわけにもいかないんだ」
リヴァイは背凭れに深く寄りかかった。自分の用件は済んでしまったので、気がだれつつあった。
「一度の遠征で一気に手練を失うわけにはいかない。そういう配慮――だな? エルヴィン」
「その通りだ。前回の遠征のときは小規模だったが、被害が多く、惜しい兵士を何人も失くした。今回は温存しておきたい」
「湯水のように才能のある兵士は湧かないしね。育てるのも時間がいるし、新兵は毎年少ないし」
眼鏡越しにハンジは柔らかく微笑む。
「おっけ~。なるべく上手に配置して、私も全力で指揮するよ」
「ありがとう」エルヴィンの視線がリヴァイに移った。「目が届く範囲で構わない。索敵班と、その前後のフォローを頼む。負担を増やして悪いが」
「そのつもりだ」
第一分隊長の背後では、暖炉の上に飾られている剣が炎を映していた。リストを見て何やら眉間に皺を寄せているので、彼に話しかけてみた。
「クソを我慢してるなら、いまのうちに行ってこい」
「そうじゃない。あまり分隊に入れたくない奴がリストに入ってるんでな」
「上官が兵士を差別をするな。示しがつかんだろう」
扱いにくい兵士が中にはいることをリヴァイも認識している。かといって選り好みをしていられるほど兵士が溢れているわけでもない。上官という役職を与えられている以上、どんな人間でも上手にコントロールする力がなくてどうするのか。
「入れたくない理由は知らないが」
話の途中でハンジが割り込んだ。「リヴァイ、たぶんそれね」と眉を下げ、空笑いで片手を伸ばしてくる。
「うるせぇな」リヴァイはハンジを黙らせて、「グズで鈍間とか、年中ぼけっとしてるとか、一体どんなタイプなんだか知らないが、そういう奴らを巧く使うのが」
「だからねリヴァイ」
「さっきからなんだ、ハンジ。人が喋ってるときに口を挟んでくるな」
苦情じみた顔つきの第一分隊長が、卓に置いたリストを叩いた。
「君が言ったこと全部だ」
リヴァイは目を眇める。「は?」
「だから全部だよ。グズで鈍間、年中ぼけっとしてる、ほかにももっとある」