第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
待機などもともと考えていなかった。今回は休めと言われても同行するつもりだった。自分の班をようやく結成できる機会なので、入れたい兵士の目星もすでについているのだ。
「なんだ、何かあるのか」
いや、と小さく返してエルヴィンは頷いた。「了解だ、いいだろう」
「条件があるとかもったいぶって~。最初から待機なんて考えてもないでしょう、うずうずしてるくせに」
見透かしたような笑みでハンジは言った。
「前回が五ヶ月前だからな。そろそろ豚どもを切り裂きたいと思ってたところだ」
「あなたがその気を見せた途端、副分隊長たちがほっとしちゃってる。ま、いつまでも頼ってちゃいけないんだけどさ」
隣に座るモブリットにハンジが目配せをした。彼を含め、ほかの副分隊長たちが決まり悪そうに苦笑している。
エルヴィンは指先で卓を叩いて呼ぶ。
「お前のことだから班編成はもう頭にあるんだろう、リヴァイ」
「ああ。動きがいい奴を選んだ。どの分隊も欲しがるかもしれねぇが、俺がもらって構わないよな」
「うん。リヴァイの精鋭班には初列索敵を任せたいと思っている。腕のいい兵士で固めたほうがいい」
エルヴィンの許しが出たのでリヴァイは名前を上げていった。
「エルド・ジンとグンタ・シュルツ、こいつらは入団三年目で経験豊富だ。あとはオルオ・ボザドとペトラ・ラル、入団二年目で経験的には心もとないがセンスはいい。なにより、ペアを組ませると実力以上だ」
「了解だ。早々に四人に辞令を出すが、お前からも声をかけておいてくれ」
リヴァイは浅く頷いて返した。本当は力いっぱい頷きたいほど満足していた。自分が指導したら彼らはもっと強くなる。そう確信しているからだった。
卓に置かれた二つの燭台の、三本の蝋燭がたらりと蝋を垂らしていく。
ハンジがエルヴィンに顔を巡らせると彼女の後頭部が露わになった。炎の明かりで透ける赤茶の髪が、いやに油を纏っているように見えた。風呂に入ったのはいつだろうかとリヴァイの顔が歪んだが、問うのは怖いので黙っておくことにした。
「で、エルヴィン。リヴァイは決まったとして、残りの二分隊は?」
「第一分隊と第四分隊のお前で行く。人員の振り分けは、戦力が偏らないよう互いで相談してくれ」