第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
四人の分隊長と各副分隊長で八人、団長と兵士長を合わせて十人が、室内の中心に据えられた大きな長卓を囲んでいる。
雨が滝のように流れる大窓をエルヴィンは背にしていた。束になっている書類を一枚だけ残して、隣の分隊長に手渡す。
「来月予定している、第五十五回壁外調査に随行してもらう兵士のリストだ。怪我人や特別な事情がある者以外を除いて私が選別した」
隣から隣へリストが順に回ってくる。エルヴィンと対面する位置に座るリヴァイに、ハンジがリストを差し出してきた。
「はい。反対側に回して」
「おい、エルヴィン」リヴァイは組んでいる腕を解かずに言う。「両側から回したほうが効率がいいと、前回も言わなかったか」
「悪かった、だが大目に見てくれ。リストが皆に渡るまでのあいだも、俺は考えを整理してたりするんだ」
ふん、とリヴァイは鼻を鳴らした。ハンジがリストの束を揺する。
「ほら、早く回して」
返事をしないでいるとハンジはあからさまに溜息をついた。
「まったく、どこの王様だよ」
一枚リヴァイの前に置き、腕二本分離れている正面の分隊長へリストを滑らせた。
全員に回り切る前にエルヴィンの口が開いた。
「今回は二分隊で出立する。中規模遠征で、前回の続きであるルート開拓を一気に進める作戦だ」
おのおのリストを眺め入る中、リヴァイは手も伸ばさない。
「半数の兵士を同行させるのか。二分隊と言ったが俺はどうなる。待機か」
待機と発した言葉に副分隊長たちが反応した。遠慮がちに横目してくるさまは不安の色がちらつく。一個隊の戦力があるリヴァイが待機となると、火力不足が案じられるからだろう。
「いつも頼りにして申し訳なく思うが同行してくれるか。どうしても見送りたいというのなら配慮するが」
「条件がある」
エルヴィンは目だけで促してきた。
「俺の班構成だが、好きに組ませてもらう」リストに顎を投げる。「この中にいない奴もいるかもしれん」
即答だと思っていたが意外にもエルヴィンは黙した。妙に思い、リヴァイの眉は寄る。