第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
リヴァイが探し当てたかった記憶とは、おそらくと初めて会ったときのことだろう。調査兵団の兵舎で対面したときのことではなく、もっと以前に二人は出会っているのだ。
思い出すことを諦めたリヴァイの耳に、エルヴィンの声がようやく聞こえてきた。突き放すような響きだった。
「納得いかない君の気持ちが、分からないほど私は人間を捨てていない。だがいつまでも甘えていてもらっては困る。自ら志願して君は調査兵団に入団してきたんだ。左胸の心臓を、国のために捧げる覚悟があって一員になった。違わないね?」
エルヴィンの言っていることは正しい。が、リヴァイは改めて思わずにはいられなかった。がどうして調査兵団を志願したのか、いまだ謎である。
ここまで説きつかれれば甘んじて受け入れるしかないと思う。拳を震わせるの横顔は、いくらか伏せ気味だった。貝のようにぴったりと合わさっていた唇から歯が覗く。
「……おっしゃる通りです。失礼な発言の数々……申し訳ありませんでした」
ひどく悔しそうだった。
リヴァイの独断によって、が持つ自分への心象がさらに悪くなろうが別に構わない。そう強く言い聞かせるのは、ようやく築き始めた良好な関係を崩したくない――と、そう思っていることを認めたくないからであった。
団長室をと退室したリヴァイは互いに一言も発せずに廊下を歩いた。夕飯の時間にはまだ早いので兵舎に一旦戻るつもりだ。
ついてこなくてもいいのに、一定の距離を保ってあとを追ってくるは背後霊のようだ。背中に感じる視線は悪霊そのものだった。
リヴァイの選択の何がを恨みまがしくさせているのか。それは、三日も雨が降り続けるとは思いもしなかった二日前のことである。
――第三会議室で団長と各分隊長が額を集めていた。一ヶ月半後に予定している壁外調査の幹部会議だ。
夕方から降り出した雨は、あっという間に暴風雨になった。夕食後の満腹感に幸せを感じる隙を与えないくらい、大事な人員構成を今日中に決めなくてはならないのだ。