第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
を見据えたまま、エルヴィンが小さく溜息をついたように見えた。一瞬だけ素早くリヴァイに視線を走らせてきて、口を開いた。
「報告を受けている私よりも、君の実力を一番よく理解しているリヴァイの判断だ」
リヴァイは思わず眼を伏せそうになった。黙っていてほしかったわけではない。ごく小さな棘が心臓に刺さったからであった。
痛みすら感じないほどの棘だったので、なぜ眼を伏せそうになったのかまではリヴァイは認識できていない。実は己の選択に対する惑いという棘なのだけれど。
意外だったのかの眼が丸くなる。
「判断? 判断ってどういうことですか? 団長の意向に同意したということでしょうか」
「逆だ。リヴァイの意向を私が呑んだ」
「そんな……」言いながら不自然な半笑いでは後退る。「何かの間違いでは? だってボクのことは、リヴァイ兵士長が誰よりも分かって」
「間違いではない。多少反対意見は出たが、リヴァイの強い意向を汲むことにした」
しばし放心していたが、頬を引っ叩かれたように顔を巡らせてきた。親の仇のような眼でリヴァイを睨んでくる。
目を合わせまいとリヴァイは無視していた。と、強い風で窓ががたついたので瞳が揺れ動いてしまった。髪の毛と一緒に唇を噛んでいると視線が交差する。それで思わず瞬きをして瞠目した。
決定事項に対して反感してくるだろうことは想定内だった。が、予想以上の反応だった。南方駐屯地での講義で取得してきた知識がおそらく影響しているのだろう。自分の命が危険に晒されるとあらば、さすがのも黙っていられないようだ。
気味悪く悲鳴を上げる風とともに、がたつく窓にもう気を取られないよう、リヴァイは再び旗に目線を固定した。そうしてまだ何となくもやもやしている当てを探す。
勝気に睨んできたの目顔を見たのは、今回が初めてではない気がした。似たようなことが以前にもあったと思う。
外の雨風の音や、室内の話し声すら耳に入らなくなるほど、無音の世界で記憶を漁る。が、ついには思い出せなくて、リヴァイはかぶりを振りたい気分だった。