第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
両肩が濡れていくリヴァイを見て、自分のことで心労を積もらせたくないと思う一方で、こんなに深刻に語るほどのことなのだろうかと、どこかでまだ思わずにはいられなかった。まるでいまのままでは壁外から生きて帰れないと宣告された気分で、雨はおおいにの胸を冷やしてくれたのだった。
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雨は三日三晩降り続けた。夕刻だというのに窓越しの空は鈍色一色で、いい加減見飽きた景色だった。
暖炉のそばで壁に寄りかかっているリヴァイは、腕を組んだまま動かない。顎を上げ気味に、目線の先には隅に立て掛けられた兵団の旗があったが、とりわけ意識して見ているわけではなかった。
ほどなくして難色露わな声が上がった。
「待ってください! ボクはまだ入団したばかりで、そんな大層な役割は手に余ります!」
相手がエルヴィンでなかったら、書斎机を叩かんばかりの勢いだった。あることを告げるために団長室に呼び出されたの声であった。
椅子に腰掛け、口許で手を組むエルヴィンの両目はを見据えている。一個人の意見など関係ないといったふうだ。
「幹部会議で検討の上での決定事項だ。手に余る余らないの問題ではない」
「ですが! どう考えたってその人選は間違っています! 失礼ですが、ボクの訓練の成果を団長はご存知ですか!?」
「知っている。定期的にリヴァイから報告を受けている」
嘘偽りない事実と、リヴァイの見解が多分に含まれた報告書のことである。正式なものであるが中身は悪態をついたものに近い。
他人が見たのなら、「ひどいね」と苦笑するしか返事のしようのない内容だ。現にエルヴィンも苦く笑った。が、いまはそんな緩い顔つきでは一切ない。
相変わらず書類だらけで、書くスペースが狭くなっている書斎机を挟んで二人は対面していた。対角線上にいるリヴァイは旗から僅かに視線をずらしてちらとを見た。青い血管など浮き出ていない手をぎゅっと握りしめている。
「でしたら、ボクなんかではとても対処できる役ではないと、お分かり頂けてると思います! それなのになぜですか!?」