第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
だから、とリヴァイはしみじみ言う。
「相手がガキだってのに自分から前向きに指導を仰いだことで、少なからず俺は」
言いながら後ろを振り返る。さっと苦虫を噛み潰したような顔つきになった。
「なんで笑ってんだ、てめぇは」
「ごめんなさい、でもそんな見上げたものじゃないから、つい」
口許を押さえては笑う。
アニにお願いしているのは、ただ単純にリヴァイから指導を受けたくないからであった。彼が静かに言葉を連ねていくから、そうではないのだと可笑しくなってしまったのだ。
リヴァイは苦虫を胃に落としたようだ。夕焼けを浴び、真情の色合いを帯びる瞳でを見据える。
端正な面差しに見つめられると胸がこそばい。恥ずかしくて、はわざと茶化した。
「怒りました? やっぱり適当な奴だって」
リヴァイの視線が外れた。歩き出し、
「理由が褒められたものでないとしても、嫌いな奴から指導を受けるよりは、自分で頼んだ奴に習ったほうが身になるだろう」
「別にリヴァイ兵士長が嫌いだからとか、そういうんじゃ」
思わず言い淀んだ。苦手意識まで見透かされていたようだ。でも以前ほどじゃない、と思っているがいる。たまに伝わる思いやりで、リヴァイが冷たい人間ではないのだと知った。
むしろ彼は、暖かい色をしている夕空のような――
「壁の外を知らないから、お前は笑っていられるんだ。付け焼き刃が通用するとは思ってないが、少しでも生き延びる糧になるのなら、動機がどうであれ俺は」
リヴァイは噤んで、緩めに頭を振った。そして腹に手を当てて呟く。
「……腹が減ったな」
目線を落として、は自分の靴先が砂つぶを散らすのを見るともなく見ていた。
リヴァイは心配してくれているのだ。その気持ちは素直にありがたいし、安心するのならば、これからもアニに護身術を習おうと強く思ったのだけれど。
乾いた地面にぽつんぽつんと水滴が跡をつけ始める。上空を仰ぎみると、曇ってもいないのに細雨が降り出し始めていた。
「……雨」
「遠くのほうにでかい雨雲が見えるな。夜には本降りになりそうだ」