第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
は指先で地面に円を描く。
「覚えてきた技で、リヴァイ兵士長をあっと言わせてあげたかったのに、こんな結末で」
「へんてこな技を食らいそうになって、違う意味であっと言いそうになったが」
「ちゃんとした技も教えてもらってましたよ。頭突きは最終手段なんですから」
リヴァイはふっと軽く吹き出した。
(……お面の顔に血が通った)
ときおり見せてくれる特別感のある彼の表情は、の胸をきゅっと痛くしてくる。甘い胸のときめきが原因なのだけれど、自身は感取していないので疲れからくる動悸だと思っていた。
「早速使っちまったのか。奥の手なんだろう?」
と、首を傾けたリヴァイの目許は心なしか穏やかだった。
「とっておきの必殺技でした」
「あんなのは必殺技とは言わない。まったく、あまりの間抜けさに気が抜けちまったじゃねぇか」
ばつ悪く上目遣いするにリヴァイは手を差し出した。
「対人格闘術は訓練兵のガキに任せる。別段相手に勝とうと思わなくていい。目標は、自分の身を自分で守れるようになれるまでだ」
「いいんですか!?」
彼の手を取ったの瞳は輝いた。逆にリヴァイは表情を打ち消す。
「嬉しそうだな、おい」
「い、いえ」
たらりと眉にかかる汗を感じながら、は眼を泳がせて立ち上がった。
本当はとても嬉しいと思っていた。彼の言う訓練兵のガキとはアニのことだった。彼女の指導も厳しいのだが、怪我をするリスクはリヴァイに教わるよりも減る。
兵舎の方角へリヴァイがゆっくりと歩き始めた。見上げると黄昏だった。
「俺としては意外だった」
「何がですか?」
三歩分空けて彼のあとにつき、は首をかしげた。
「お前は、どうも訓練に身が入らないところがあるだろ。やる気がねぇのとは違うんだと最近分かってきたが」
相槌を打てなくては黙り込んだ。いまだ現実味がなくて、いつまでたっても心が引き締まらないことを見透かされていたからだった。