第2章 :神業と出立と霹靂(そんな程度の女)
隠れていても何の解決にもならないから道に出てみよう。眼を閉じて息を吐いて、今度は深く息を吸って、吐き出しながら肩の力を抜き、そうして眼をかっと開いた。
「よし!」
励ますように両腿を叩いて、は表通りに飛び出した。勢い余り、石畳の繋ぎ目に足を掬われてつんのめる。
「わっ」
反射的に三歩分足が出て、何とか転ばずに体勢を整えられた。
「あぶない、あぶない」
転びそうになったことを恥じて誤魔化し笑いをした。何の気なしに横髪を撫でつけ、何事もなかったかのように表通りを歩き始める。
見覚えのない街並に不安が押し寄せてきた。すれ違う人々がを不審げに見てくる。わざわざ振り返って二度見する者までいた。笑顔を絶やさず、挙動不審に見られないよう気をつけた。
前から婦人が歩いてくる。面差しが優しそうな人間に見えたので話しかけてみようと思った。ここがどこだか、まず知る必要があった。
「ハ、ハロー。こ、こんにちは。良いお天気ですね」
笑顔で声をかけたが、婦人に眼を伏せられた。
「ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど」
眼を合わせずに婦人は通り過ぎていこうとするから、横から尋ねる。が、関わりたくないとばかりに駆け足で去られていってしまった。
「聞きたいことがあるだけなのに……」
盛大に無視されてしまうと為す術もない。原因はの服装にあるようだった。周囲からすっかり怪しく思われているみたいだった。
は一人ぼっちだった。海外に行ったときだって、こんな扱いを受けたことはないのに。むしろ歓迎してくれたのに。
通りをゆく親子連れがあった。母親としっかり手を繋いでいる子供を見て、無性に寂しさが募った。母親なんてうるさい存在でしかなかったのに、いまはとても恋しく思う。油断すると涙が零れてきそうだった。
(だめ! しっかりしないと!)
両手で頬を叩き、気持ちが萎みそうになるのを堪えさせた。
「おい、貴様!」
突然、は強い力で肩を引っ張られた。驚いて振り返る。