第4章 雨月
苦い沈黙が流れた。
『わかって…いたんですが…』
少し声が震えていた。
『智が何も言わないんで…いえ、智に甘えていました…』
「…智くんは大人びてはいますが、まだ高校生です」
『はい…』
「一昨日…学校で面談した時。私の前で、彼は泣きました」
『え…?』
大野の父親は、絶句した。
「子供のように、声を上げて…それほど、辛かったんだと思います」
『…そう…ですか…子供のように…外では、泣かない子だったんですがね…私たち以外の前じゃ…』
「……大人のような見た目になっていますが、彼はまだ未成年です」
『はい…』
「そして、あなたの所有物でもない」
『はい…その通りです…』
「では、私は智くんを探しに行きます。あなたはすぐにこの部屋に戻ってきて、奥さんを病院に連れて行くなりしてください。このままにしておきますので」
『…わかりました』
それから、大野の立ち寄りそうな場所を思い出してもらったり、緊急の場合メールで連絡を入れるなどの打ち合わせをして話を終えた。
『あ、あの…』
「なんでしょう?」
大野を探しに行かなきゃと思って気が焦った。
『櫻井先生のお父様は、どこの省庁に…』
「総務省です。郵政族の櫻井とでも言えば、わかるんじゃないでしょうか?調べてくださっても結構ですよ?」
『とっ…とんでもないっ…』
改心したかと思ったけど…やっぱりクズだ。
「では、失礼します」
こんな奴のとこに…大野は戻せない…
握りしめた拳で、目の前のソファを殴りつけた。