第4章 雨月
親父、すまん。
今まで親父の職業を、こんな脅しに使ったことなんてなかったが…今は、使わせてくれ。
『か…官僚なのか…?』
「だからそうだって言ってんだろうよ。あんたの会社のことも、よく言っておくよ」
大野の父親の会社は、中央省庁と切っても切れない間柄で。
もしもこんなことが省庁経由で会社に知れたら…
大野の父親のクビが飛んでいくのは、わかっていた。
『そ、それだけはっ…』
さっきとは打って変わって、慌てふためいている。
もう、ため息しか出てこない。
「なら、ちゃんと奥さんの面倒を見てください。智くんの担任として、お願いします」
『は…?』
「病院に入れるなり、きちんと手配をしてください。あなたが」
『で…でも…』
煮え切らない。
そんなに大事なのか。自分が。社会的地位が。
向き合いたくないのか。自分の妻に。
自分の息子に…
再び怒りが、込み上げてくる。
「…警察呼んだっていいんだぞ…?今、この部屋がどんな状態か…あんた、わかってんのか?」
『そ、それは…その…』
…わかってるんだ…
こんな状態の部屋の中、大野が暮らしていることを、この人は知ってるんだ。
「わかってんだろ?」
『はい…妻が暴れるのは、いつものことでして…アルコール中毒なんだと思います…ち、治療には必ず連れていきますっ!だから、その、警察だけは…』
クズ野郎…
本物のクズ野郎だ…