第4章 雨月
「大野さん…児童相談所案件ですよ。これは虐待です」
『は…?通報するというのか!?』
「こんな劣悪な環境に智くんをこれ以上置いておけません」
『……』
「あなたがなにもする気がないというなら、智くんは児相で保護して貰います」
できないのなら、俺が…
とにかくこの家から、大野を引き離さないといけないと思った。
『あんた…何様のつもりなんだ…?』
父親の声が、ガラリと変わった。
『家がいくら、お宅の学校に寄付してると思ってる』
「…それが智くんと、なんの関係があるんです」
『あんたの馘首なんて簡単なんだ』
「…は…?」
『これは脅しだろう?脅迫されたって、言ってやるよ…学校に』
「脅迫?これが?」
『…私がそう感じたんだから、それが真実なんだ。学校は、果たしてどっちの言うことを信用するだろうねえ…』
ニタニタ笑っているのがわかるような…
厭らしい声だった。
脅迫してんのは、てめーじゃねえか。
…これがこの人の本質なんだ。
昨日、気が短いと感じたのは間違いじゃなかった。
「…やれるもんなら、やってみやがれ」
『なんだと!?』
「俺の親父は、霞が関の役人だ。どっちの言うことを信用するかな?」
『え…?霞が関…?』
「上等じゃねえか。真実とやらの報告、やってみろよ。馘首にしてみろよ。出るとこ出てやるよ、大野さんよ」
途端に、大野の父親は黙り込んだ。