第4章 雨月
しばらく大野の母親の絶叫を、スマホの向こう側に聞かせた。
醜悪な怒鳴り声は、しばらくすると疲れたのか…静かになった。
「…聞こえましたか」
『……』
「大野さん、あなたはこんな環境の中に、智くんを放っておいたんですか」
『……智が…自分でするって言ったんですよ』
「は?」
『自分で母親の世話をすると、私に言ったんです』
ヘラヘラと…言い切った。
「でも昨日、智くんはなんと言ったか覚えていますか?もう限界だと言ったんですよ?」
『いえ…ですから、昨日あれから家に帰って話し合ったんですよ…高校卒業までは、母親の世話を続けると、智は自分で言ったんですよ?』
「なぜそんな嘘をつくんです」
『…失礼だな。あなたは智の担任でしょうが、私は父親なんですよ?嘘をついてなんのメリットがあるんです?』
「智くんは家を飛び出していきましたよ」
『え…?』
「お母さんを部屋に閉じ込めて、家を飛び出していきました…」
『なにを…あいつっ…』
「大野さん…智くんの行き先に心当たりは…」
『そんなの知るもんかっ…息子の世話は妻に任せていたんだっ…』
…結局、あんたはなにもしてないんじゃないか…
なんて…
寒い
ここは、寒い…
大野
ごめん
気づいてやれなくて、ごめん