第1章 狐月
しばらく体に感じた衝撃に耐えていたら、頭上から声が聞こえてきた。
「おい…せんせー…大丈夫かよ…?」
戻って…来た…のか…?大野…
「ちょ…櫻井せんせー…?」
大野が近づいてくる気配がした。
すかさず体を起こして、目に入った制服の腕を掴んだ。
「つーかーまえーたー…」
やった!ついに捕獲したぞ!!
成人男性櫻井、やるじゃないか!!
「せんせー…血ぃ出てるよ…?」
「あ?そんなことより、HR始まるから行くぞ!大野!」
そんなことじゃごまかされないからな?
「…わかったから…行くから…とりあえず、保健室…」
「俺のことは大丈夫だからな?さ、行くぞ!」
何か言っているが、大野の手首を掴んだまま、歩き出した。
もう予鈴が鳴った後だから、なんとか本鈴までに教室に放り込んでやりたかった。
「せんせー…そんな走ったら…」
まだなんかブツブツ言っている。
「んー?なんだ?大野?」
歩きながら振り返って大野の顔を見たら、なんかすっごく微妙な顔をしている。
額から汗が垂れてきたから、袖で拭った。
拭って下ろした袖口に、赤い色がついていた。
「……!」
血…血…血ぃぃぃぃ…!