第1章 狐月
「あっ…」
止まってぼけっとしてたかと思ったら、踵を返した。
これはっ…
「おいっ…」
絶対、絶対、帰る。
ここまで来ておいて、面倒くさいからと帰るのが大野だ。
連休前に面談したんだが、そのようなニュアンスのことを面倒くさそうにボソボソと話していた。
急に大野が走り出した。
「おいっ…待て!大野っ…!」
体育の成績は良いほうだから、足が速い。
俺は自慢じゃないが、足が遅い。
しかし、俺は成人男性。
メガネを掛けた視界が激しく揺れるほど爆走した。
高校生に負けるわけにいかない。
「待てってば!大野っ…」
負け…る…わけ、には…っ
「待てっ…大野っ…走るなっ…どあっ…」
なにもない道路で、なにかに躓いた。
そのまま、空が見えたかと思ったらアスファルトの地面が急に目の前に来て、目を閉じた。
その瞬間、体の前面にものすごい衝撃が来た。
…コケた…臭い…
額にものすごい衝撃を感じた。
メガネがガチリと音を立てたのも聞いた。
どうやら、前を向いたまま、まともにコケてしまったようで。
薄っすら目を開けると、アスファルトの路面が見えた。
…どうしよう…
……超絶カッコ悪い……