第3章 薄月
そう言えば、昨日の喫茶店で激甘のカフェラテとコーヒーを飲んでから、なんにも口にしてない。
「喉…乾いたな…」
立ち上がって、キッチンに向かった。
冷蔵庫から水を取り出したら、玄関が開く音が聞こえて。
部屋に行こうとしたけど、母さんがリビングに顔を出した。
「智…今日、学校は?」
「……休んだ」
「そう…」
酒の匂いを纏ったまま、フラフラとキッチンに来ると、俺の手に持っているペットボトルを取り上げて蓋を開けた。
ふと、シンクにあるカップを見ると、ペットボトルを床に落とした。
水を振りまきながら、ボトルは隅っこまで転がっていった。
「このカップ…」
血走った目で、カップを見つめてる。
それは、父さんのマグカップだった。
「あの人…来たの…?智…」
「ああ…」
「昨日!?昨日帰って来てたの!?」
母さんは叫ぶように言うと、走り出した。
寝室のドアを開けて…父さんがいないとわかると、家中探し始めた。
洗面所や風呂のドアを開いてる音がする。
「もう…いねーよ…」
父さんは、昨日のうちに、愛人のところに戻ったんだから…
散々、家中引っ掻き回すように父さんを探して…
暫くしたら、キッチンに戻ってきた。
俺の胸ぐらをつかむと、激しく揺さぶってきた。
「なんであの人を止めないのよ!?なんで…智っ…」