第3章 薄月
父さんが俺の肩を掴んだ。
「そんなことしたら…どうなるか。わかってるんだろうな?智」
「…父さんが破滅する。それだけだろ?」
「俺が言えば、あんな若造の教師、飛ばすことができるんだぞ」
「え……?」
「いくらあの学校に寄付したと思ってる…大口の寄付を積んでるんだぞ…あの教師に脅されたって言えば、すぐ首なんて飛ばせるんだ」
掴まれた肩が痛い。
すごい力で掴まれてる。
「何いってんだよ…先生が何を脅したっていうんだよ…!」
「脅しじゃなくったっていい…なんでもいいんだ。教師に不適格だって言って、辞めさせることなんか…」
ぐいっと俺の肩を引き寄せて、父さんが目の前でニタリと笑った。
今日の母さんと同じくらい、嫌な笑い方だった。
「…簡単なんだよ…智…」
体中の力が、抜けていった。
父さんが肩を掴んでた手を離すと、立っていられなくてフローリングの床に崩れ落ちた。
目の前にいる人は…誰だろう…
こんな人、知らない
「あと2年もすれば、仕事も落ち着くだろうから、正式に母さんとは離婚できる」
知らないこんな人
「あとちょっと我慢すれば、一人暮らしさせてやる…大学へ進んだら好きにすればいい。18歳は成人なんだから、あとは一人でも大丈夫だろう?」
しらない
「そうなったら、もう母さんのことは放っておいていいから…じいさん達の遺産があるから、どうとでもなるだろう?」
しゃがんで、俺に阿るように笑った。
「智は男だろう?だから、我慢してくれよ…な?」