第3章 薄月
先生…
櫻井先生…
「智ならわかるだろう?もう、俺はこの生活は耐えられないんだ…」
なに…言ってるの…
「見合い結婚なんかしなきゃよかった…なんであんな女と結婚してしまったんだ…こんなはずじゃなかったのに…」
あんな女にしたのは…父さんじゃないか…
「今、父さんは仕事が大事な時期なんだ…だから離婚もあと数年はできるような状態じゃない…それに今離婚したって、母さんひとりで智の面倒はみられないだろう?」
じゃあさっき先生に言ったのは、嘘だったの…?
「父さんだって事情があるんだ…おまえを引き取るわけにはいかないし…今、このままの生活を続けていくことが、一番なんだよ」
先生…よかったなって…言ってくれたのに…
「母さんだって、今は一人にはできないだろう…病院に入れるわけにもいかないし、誰かそばに居ないと…智しかいないんだよ…な?わかってくれるだろ?」
嘘を…ついたんだ…
「父さんさえ浮気しなきゃ…こんなことにはならなかったじゃないか」
怒りで、震える。
こんなこと初めてだった。
「え…?」
父さんが、泣きそうな目で俺を見る。
「父さんがっ…母さんを壊したんじゃないかっ!こうなったのは父さんのせいじゃないかっ!」
「智…」
「なんで俺が…なんで俺が殴られなきゃいけないの?なんで母さんの面倒みなきゃいけないの?なんで?父さんのせいなのに!」
そう怒鳴りつけると、父さんが頭を抱えた。
「おまえまで俺のこと責めるのか…」
「…これ以上逃げるなら…これ以上、俺と母さんから逃げるなら…全部、先生に言う。母さんに殴られてるって…暴力振るわれてるって。父さんは見て見ぬ振りをしてるって!」
そうだよ…最初からこうすればよかったんだ。
「智っ…なんてことをっ…」
父さんが立ち上がって、俺の方へ歩いてきた。
「約束したじゃないかっ…先生と!ちゃんと話すって!なのになんで…なんで我慢しろって言うんだよ!」
先生…
助けて