第3章 薄月
父さんはため息を付いて、リビングのソファに深く腰掛けた。
「…また男の所か…」
眉間を指で揉みながら、背もたれに凭れると暫く何も言わない。
「…今まで話してこなかったけど、智は全部わかってるな…?」
「うん…」
…俺が中学生の時…
母方のじいちゃんやばあちゃんが相次いで亡くなって。
その頃から、母さんは心のバランスがおかしくなってた。
遺産…とか、金のことで父さんと喧嘩することが増えて…
暫くしたら父さんが出張する事が増えて、家に居ることが少なくなった。
多分…もうその時には、女が居たんだと思う。
それから母さんは酒浸りになって…
…こんなに酷くなったのは、じいちゃんが亡くなってからで…
じいちゃんは俺の家の近所に一人で暮らしてた。
父さんのこと、いつも怒ってくれてて…
唯一の俺の味方だった。
そのじいちゃんが亡くなったら、俺の家はバラバラになった。
母さんも家に帰ってこなくなって。
帰ってきたと思ったら、酒の匂いをさせながら暴れて…
最近じゃ、父さんに似てる俺のことが憎いって暴力まで振るうようになった。
「こんなこと…職場で知られたらいい晒し者だ…」
そう呟くと、目を開けて俺を見上げた。
「おまえ、あと2年…いや、1年と数ヶ月だ…耐えてくれるな?」
一瞬、何を言われてるかわからなくて。
「大学に上がったら、一人暮らしさせてやるから…それまでは、ここに居て欲しい…外聞が悪い」
なに…いってんの…?
「母さんが暴れたら、外に出てなさい。ホテルでもなんでもあるだろう。家族カードを作ってあるから、それで精算しなさい」
そう言って、テーブルの上にカードを置いた。
「…父さん…」
俺に、まだこの生活を続けろっていうの…?
「今日みたいに、先生に呼び出されるようなことをしないでくれ…頼むよもう…」