第3章 薄月
side O
帰りのタクシーの中で、父さんはなにか考えてるようだった。
何も話さないまま、車は家へと近づいていく。
家の近くでタクシーを降りると、父さんは先に立って歩き出した。
「…済まなかったな…智…」
ぽつりと聞こえてきた声に、なんて答えていいかわからなかった。
「…母さんとちゃんと話してよ…」
そんなことしか、言えなかった。
「ああ…そのつもりではあるんだがな…」
少し背中が小さく見えた。
あんな状態じゃ…話せないのはわかるけど…
家に帰ったら、部屋はシンとしていた。
誰も、居なかった。
夕方、一度帰った時。
新しい家政婦さんが、部屋を片付け終わったところだった。
一体どうしたらこんなになるのか、聞かれて…
俺がやったのか疑ってるようだった。
どうやら家政婦を依頼する会社を変えたみたいで。
今までのとこは断られたんだろうな。
何も知らないでこんな状態の家に来て、半ば怒っているようだった。
どう答えたらいいのかわからなくて黙っていたら…
寝室のドアから、母さんがこっちを見てた。
嫌な笑い方をしてた。
あれから出かけたんだろう。
家の中は、ガランとしてて。
きちんと整えられた室内なのに、廃墟みたいに見えた。