第3章 薄月
「よ、良かったな!大野っ」
そう言うと大野は不貞腐れた顔をした。
もしかして…不貞腐れてるんじゃなく、照れてるんだろうか?
「よく、頑張ったな」
「別に…何も頑張ってなんか…」
あ、やっぱり照れてるんだ。
「おまえが勇気を出して、話したからだよ」
「え…?」
「だから、お父さんはちゃんとしようって…そう言ってくれたんだよ」
大野は黙って、コーヒーを啜った。
ちょっと顔が赤くなってる。
「べ…別に…」
そう言ったっきり、ずずーっとコーヒーを飲み干した。
「先生が…言えっていうから…」
「よかった」
「……」
「よかったな。大野…」
そっと肩に手を置いた。
「先生、まだまだ頼りないかもしれないけどさ…でも、もしもなんかあったら、俺に話してくれないか…?」
「…別に…」
「別に?」
「…いいけど…」
「おお。そっか…」
ポンポンと肩に乗せた手で、肩を叩いた。
「待ってるからな。大野」
「……うん」
俯いてしまったけど、もう泣いている様子もなく。
俺はそのまま、また肩に置いていた手で背中を擦った。
「…子供じゃねえんだから…」
そう言うけど、嫌がってるわけじゃなさそうだった。
「まあまあ。なんか落ち着くだろ?」
「…おん…」
そのまま、父親が戻ってくるまで…
俺は大野の背中を擦り続けた。