第1章 狐月
2年E組 出席番号3
大野智
父親は大企業の役職者。
母親は専業主婦。
港区のマンションに親子3人で暮らしている。
定年になった去年の担任から聞いたところによると、母親は資産家の令嬢だったとのことで、働いているのが父親だけだが、息子の通う私立高にも大口の寄付ができるのだとか。
なので家庭に問題はないと、引き継いでいる。
しかし、蓋を開けてみたら…
遅刻、無断欠席は当たり前で。
4月だけでも、大野の家に電話を掛けなかった週はない。
いつも留守電で、でも後で必ず母親から連絡が入って、体調が悪かったようだとかなんとか…
甘やかされてんな…という印象だ。
我が母校は、いわゆるボンボン高で。
金持ちの子息の通う、私立高だ。
だから授業料は当然高額で、大野の家は更に大口の寄付家庭で…なんとも扱いにくい生徒ではある。
かくいう俺も、ボンボンではある。
それは、自覚している。
1年の放浪生活も、土壇場で親から資金援助を受けた。
汗顔の至りである。
今はその失策を回復すべく、独り立ちして独居修行中である。
飯は…作れないが。
なんて、テロテロ歩いてくる大野の姿を見守っていたら、予鈴が鳴り出した。
同時に、大野の歩みが止まった。