第3章 薄月
俺も大野の顔を見た。
まだ赤い目は大きく見開かれ、頬は紅潮している。
ぐっと唇を噛み締めて、何かが口から飛び出しそうなのを堪えているようだ。
そっと大野の背中に手を当てた。
こんな事、高校生男子にしてもいいものか迷ったんだが、ちょっとでも落ち着けるように、ゆっくりと背中を擦った。
強張っていた体から、少しずつ力が抜けていく。
「父さん…」
大野がそうつぶやいた瞬間、呼び出し音が鳴り響いた。
「あ…」
父親が懐からスマホを取り出した。
「…すいません、妻からで…ちょっと出てきます…」
「あ、はい…」
呼び出し音を鳴らしたまま、父親は個室から出ていった。
ドアが閉まった瞬間、思わずほーっと息を吐き出してしまった。
「…飲みなよ…」
「え?」
「このカフェオレ、もう俺飲めないから…飲みなよ…」
ぼそぼそと大野は言うと、テーブルの上をずずずとグラスを引きずって俺の前に置いた。
「じゃあ、新しいの…」
「いいよ…そのコーヒーちょうだい」
「あ、ああ…」
お互いの飲みかけを交換して、ずずずと吸い込んだ。
…あまくておいちい…
ホッとしながら二口目を吸い込んだら、隣から視線を感じた。
異星人をみるような目をした大野と目が合った。
そんな目でみないでくれぇ…