第3章 薄月
それから、暫く沈黙が落ちた。
部屋に備え付けてある時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえた。
「…父さん…ちゃんと、母さんと話してよ…」
「智…」
「ちゃんとしてよ…」
もう、泣いては居なかった。
でもその声はか細く…
いつもダルそうにしていて…年齢より少し大人びていて。
不思議とクラスメイトからは好かれて、頼られて。
なのにいつも、いじめられていた時の五関のような投げやりな雰囲気を纏ってる。
でも時折垣間見える、年相応の顔…
なあ、それが本当の大野の顔じゃないのか?
泣いている、今のその姿が…
本当の大野の姿じゃないのか?
俺の渡したハンカチをぎゅっと握って、耐えているおまえの姿が…
「…わかった……智、すまなかった…」
少しまた、頭を下げると俺を見上げた。
「まだ少し時間が掛かるかも知れません…何しろ、妻は荒れておりまして…」
…だから夜の渋谷に出かけるようなことも…ビーサンで登校してくることも…母親は止めなかったのか…
「私の一存だけでは決着がつかない問題です…ですから、時間は掛かるかもしれませんが…」
俺から視線をゆっくりと外し、大野を見た。
「必ず、なんとかするから…だから智、待ってもらえるか…?」