第3章 薄月
しばらくゴホゴホ言っていたけど、水を飲ませたら落ち着いた。
「ちょっと…先生…全部入れた…?」
「ああ。だって…」
「……?」
「俺はガムシロ全部入れるから…」
「嘘でしょ…」
「…今度からしない…」
そう言うと、少し大野は首を傾げて。
それから目を大きく開くと吹き出した。
「全部って…ばかじゃねーのぉ…」
くっくっく…と目を赤くしたまま笑ってくれた。
「智…先生になんて口を利くんだ…」
「あ、いえ…良いんです…今のは俺が悪いんで…」
そう言って苦笑いして父親の顔を見ると、こちらもいくらかほぐれた表情をしていた。
「…すいません…櫻井先生…」
ほうっと長い溜息をつくと、姿勢を正した。
「実は…妻とは、別居しております」
少し頭を下げた。
「学校にはなにも知らせておらず、すいません…」
「いえ…」
離婚になれば、そりゃ連絡は絶対だが…
調停中とかなら申告する必要なんてないし…
「多分、離婚になると思います。そのことで今、話し合いをしているんですが……」
ぐっと辛そうに、眉を顰めた。
「妻とは折り合いがつかず、ずっと揉めておりまして…」
目を閉じると、眉間を指で揉んだ。
「もう何年もこんな状態で…智には大変申し訳無いことをしていると思っております…」